命あるかぎり

            4

 

           ぎょくようさま、ていえい、それからほかのみんなもおげんきですか。

           ぼくはげんきです。

           げんえいきゅうはとてもおおきなおしろで、たくさんのひとがいます。

             おんなのひとがおおぜいぼくのところへきて、たくさんおかしをくれました。

           ろくたさんとわけっこしてたべたら、とってもおいしかったです。

           ほかのくにのきりんは、みんなあんまりみたことがなくて、めずらしいのだとろくたさんがいいます。

           きのうは、かんきゅうというまちにあそびにいきました。

           みんなからきいていたおみせが、とてもたくさんあって、ここでもおおぜいのひとがいそがしそうにしていました。

           ろくたさんのおうさまがいっしょにきてくれました。

           おうさまはとてもおおきなおとこのひとでした。

           でも、おしろにもどったら、さんにんのおとこのひとにかこまれてしかられていました。

           おうさまってもっとえらいのかとおもっていたら、やっぱりおしごとをしないとしかられるんですね。

           ああそうだ。

           まちはずれでちいさなおんなのこにあいました。

           ぼくよりちいさいひとにあったのははじめてだったので、さいしょはようまかとおもってしまいました。

           ろくたさんが、うまれたばかりは「あかんぼう」といってもっとちいさかったのが、だんだんおおきくなっていくのだと

           おしえてくれました。

           ぼくもろくたさんもそうだったなんて、ぼくはぜんぜんおぼえてないです。

                         でもたしかに、ぼくはきょねんよりせがのびてふくもおおきくしてもらったから、ぼくもおおきくなっているんですね。

           ていえいやおおさまもそうだったなんてなんだかふしぎです。

           あ、ろくたさんがよんでいるから、でかけてきます。

           またおたよりしますね。

           

           「なんだ、鸞 つかっていたのか。もういいのか?」

           「うん。あれ、きれいな花。」

           「ん、きれいだろ。ちょっと寄り道するけどつきあってな。」

           六太は小脇に色とりどりの花を抱え禁門でたまに乗った。

           「昨日いった関弓のはずれな。あそこに一つ墓がある。」

           「はか?…」

           「墓っていうのは死んだ者を埋めたところなんだ。これはそこに供える花でさ。」

           死者をなぐさめる、蓬莱の風習なんだ。そういって六太は静かに笑った。

            関弓のはずれの草原を見下ろす小高い丘。

           遠くからでも良くわかる数本の大木の根元に草に埋まるようにしてそれはあった。 

           周りよりも少し盛り上がった土の上に子供の頭ほどの石が置かれている。

           その石の前に持ってきた花を供える。 

           「知っている人?」

           「ん。…むかし、ちょっと、な…」

           「あ〜〜!昨日のにいちゃんたちだ!!」

           子供特有の高い声が遮る。

           振り向くと昨日会った幼女がいた。

           「おかあちゃん、ほら昨日話したロクタにいちゃんとキョウキにいちゃん!」

           幼い子供に手を引かれて若い母親がにっこりと笑った。

           「こんにちは。昨日はこの子と遊んでくれてありがとう。」

           「こんにちは。…玉葉ちゃん、だっけ?今日は何して遊ぶ?」

           「うんとね、あの…、きのうのちっちゃいのがみたい!」

           供麒は六太を伺うように見た。

           「う〜ん。じゃあ、ちょっとだけな?」

           六太の許しが出て供麒と玉葉の顔が輝いた。

           供麒の小物の妖魔が二匹、ぴょこりと土から顔を出した。

           「うわ〜すご〜い!」

           子供とは逆に母親には緊張がはしった。

           「大丈夫。あいつらは、供麒には逆らわない。危険はないから。」

           ちらりと六太を見た母親は楽しそうにはしゃいでいる玉葉に視線を戻した。

           「ウチは朱旌(旅芸人)だから一つの所に長く居ることができないの。あの子はお友達もいなくて…。だから、

            昨日あなた達に遊んで貰ってとても嬉しかったみたい。ありがとう。」

           「…いや…こっちも供麒の遊び相手を探してたから…」

           くすり、と女が笑った。

           「随分大人びた言い方をするのね?まるであの子の保護者みたい。」

           「供麒とたいして変わらないようなのに?でも、実際保護者のかわりみたいなもんだな…」

           「ねえ、あのお花は貴方が供えてくれたのでしょう?此処に眠っているのは私の祖母なの。」

           「…そう…」

           目を伏せ六太は答えた。なんとなく、そんな気はしていた。

           他にこんな丘のはずれに訪れる者がいるとは思えない。

           「貴方、六太さん、ていうのね?祖母から同じ名前の子の話を聞いたことがあるの。」

           「あんたは、自分の娘にばあさんと同じ字(あざな)をつけたんだ?」

           女は驚いたようにうなずき、微笑んだ。

           「ええ。祖母はとても素敵な人だった。明るくて優しくておまけに美人で。大好きだったの。

            祖母のようにあの子もみんなから愛されるといいと思って。…でも、ほんとに、あの六太さんなのね…

            まさかとは思ったけど。」

                         「オレ、年取らないし。見た目よりは長生きしてるから。」

           「そうね、雁の麒麟で金の髪をしていて普段は王宮に住んでる。使令という妖魔を連れていて空を飛ぶことも

            できる、だったかしら…あの子もそうなの?」

           「ああ、ただし、あいつは見た目どおりの年だけど。」

           「祖母は亡くなる少し前に私に話してくれたの。すごく懐かしそうに、子供の頃神獣に会ったって。

            六太って言う名前の男の子でとても優しくて大好きだったって。」

           「…知ってる。」

 

           あの頃尚隆の機嫌は何時にも増して良かった。適当に朝議に出て適当に遊びに出かけ。

           浮かれた様子の尚隆を見るたび、なにか、不安を覚えた。

           側にいなければいけないと思えば思うほど、尚隆はくるりと背を向けて花街に入っていく。

           六太の子供の姿では花街に入ることはできない。

           取り残され、不安と孤独を抱えて町の中を歩いた。

           今までだって何度か危ないと思ったことはあった。

           けれど何時だってなんとか立ち直ってきた。

           (今度だって、きっと…。)

           それが、儚い願いに過ぎないことは六太が一番よくわかっている。

           (…もしかしたら、今度こそ…)

           払っても払っても、それは重く六太にまとわりついた。

                         いつしか関弓のはずれまで来ていた。

           そこから先は美しい草原が広がる。

           尚隆の治世も三百年をゆうに超えて。

           国は栄えた。

           荒れ野が恵み豊かな大地になった。

           そろそろ、潮時かもしれない。

           豊かな国を返すという約束がはたされる。

           (そうだ。約束ははたされる。そして、尚隆は…)

           尚隆は。

           きっと逝ってしまう。

           今日のように。

           自分だけ取り残され。

           「…っ、いやだっ!…絶対に嫌だからなっ…」

           (尚隆がいなくなるなんて認めない…)

           「あんた、だいじょぶ?どっか痛いの?」

           突然の声に驚いて振り向くと10才ほどの少女が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

           「ケガでもした?」

           六太が首を横に振ると、すとんと隣に座った。

           そのまま何をするでもなく黙って膝を抱えている。

           ため息を一つつくと六太は先程までのことに思いを巡らせた。

           (尚隆のいない世界、か…結局あいつにいてほしいんだな)

           国も民も関係ない。

           ただ、尚隆にいてほしい。

           (オレの本音…) 

           すい、と目の前に小綺麗な手巾が差し出された。

           「えっ?」

           隣にいる少女を見やり慌てて手の甲で頬をぬぐった。

           自分が泣いていたことに初めて気付いた。

           人前で泣くことを恥ずかしがるほど若くはないけれど。

           「…ありがとな。オレ六太。」

           「私、玉葉。」           

           照れくさそうに笑った六太に、少女もホッとしたように笑顔を見せた。

           

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜           

         

           いや〜、えらく時間がかかってしまいましたが。

           連載4回目でございます。

           大変お待たせいたしました。(誰も待ってないってつっこまれそう…)

           こんな調子で書き上がらなかったらどうしようかと…ええ、心配です…このトリ頭が。

                         供麒の鸞 が「ひらがな」なのは、なんというか、気分です、はい。

           次回はしばらく六太の回想シーンが多くなりそうです。

           過去と現在がごちゃごちゃしてきて、読みにくいかもしれません、ゴメンナサイ(汗

           映画やテレビなら過去だけセピア色とかにすればよく分かるのにね…

           ところで、黄朱の民が幼子を連れているのが気になる方もいらっしゃるかと思いますが。

           十才の玉葉はともかく幼女の玉葉はワケありということで、(単なる浮民ということで;たいしたワケじゃないですが)

           次回以降にその説明が出る予定です。ということで、次回はも少し早くUPできるように頑張りマス。

           お読み頂きありがとうございました〜v