狩り                               

                              

    「あんたも、物好きなお人だ。こんな危険なまねをしなくても、いくらだって手に入るだろうに。」

    小さな焚き火を囲んで男達が笑う。

    「いやいや、こうやって自分の力で手に入れるって事が大事なのさ。このお兄さんはモノの解ったお人さ。」

    「みんながみんな騎獣を狩りだしたら、俺たちは飯の食い上げだあな。」

    「ちげいねえ。」

    「あんたのすう虞はいいねえ。良い足をしている。」

    「おいおい、兄さん気をつけな。狙ってるヤツがいるぞ。」

    此処は黄海で、危険な事などいくらでもある。

    事故に見せかけて殺して、そのすう虞を奪う事もできる。

    暗に、そうほのめかされたのだが。

    言われた本人は顔色一つ変えず相変わらずの笑顔で答える。

    「怖いなあ。でも、わたしも人を見る目はあるつもりでね。そんなことは、朱氏の誇りがゆるさないだろう?」

    「まったくだ。他の奴らは知らないが、此処にいる連中と来たら、誇りで凝り固まったようなのばっかりだ。」

    「こんなんばっかり、よく集めたな。だてに長生きしてないって訳だ。」

    黄海で狩りをする、たくましい男達が六人。その中で利広はひときわ若い優男に見える。

    だが彼らの誰よりも長く生きてきた。

    供王の昇山に付き合った事がきっかけで、黄朱と知り合った。

    以来、何度か黄海を訪れ、すう虞を狩ってきた。

    妖獣を狩るのは危険を伴う。一人で狩る者も多いが何人かでまとまって狩る事も多い。

    妖魔の跋扈する黄海で一人で狩りができるほど身軽な立場ではない。

    太子としての自分に課せられているもの。

    「誰にも知られずに妖魔の餌になると、困る者がいるんだ。

     死んだら死んだで、それを見届けてくれる者が必要なのさ。」

    何人かで協力したほうが、成功する確率も高い。

    「まあ、前金も貰っているしな。最悪それくらいの事はやってやるから安心しな。」

    笑いながら男が請け合う。

    くすくすと笑って、利広も答える。

    「たのむよ。」

    初めて狩りをしてから百年は経った。

    一緒に黄海へ行く朱氏の顔ぶれもすっかり変わった。

    仙である利広の体は、彼らよりよほど頑丈に出来ているのだが。

    そんなことは百も承知で、男達は笑う。

    この風変わりな太子は優男のように見えて、なかなか侮れない。

    妖獣を狩る時は、誰よりも熱く、速く、翔て行く。

    だからこそ、朱氏達も仲間として認めている。

    「そろそろ良いだろう、出かけるぜ。」

    男達が騎獣に乗り込む。

    少し前に瑪瑙の細かな屑を撒いてきた。

    今頃、その瑪瑙に惹かれてすう虞が来ているはずだ。

    運さえ良ければ、2、3頭いる事もある。

    妖獣も気配には敏感だが、瑪瑙のおかげで少々酔った様に鈍くなっている。

    大きな瑪瑙で引きつけ、綱を幾重にも絡ませる。

    動きを封じた酔ったすう虞に引き綱をつける。

    この引き綱をつけるのが、一番危険だ。

    酔っているとはいえ、妖獣のそばによって直接つけなければならないので

    嫌がる妖獣の反撃をうけやすい。

    すう虞を上回るだけの気迫と俊敏な動きが必要になる。

    「いたぞ」

    合図でそれぞれのポジションに散る。

    利広も綱を構えて星彩を操る。

    夜目にも白い毛並み。

    白地に黒の縞模様のすう虞は普通だが、これはまた珍しいほど白が勝った、ほとんど白といっていい

    美しいすう虞だった。

    ようやく人の気配に気付いたすう虞は逃げ出すが、すでにその動きは鈍い。

    男達が追い、すう虞を取り囲む。

    瑪瑙に酔ったすう虞は大きなネコのようで、しなやかな体をくねらせるように動かす。

    鼻先に大きな瑪瑙を投げる。

    逃げる事も忘れ夢中で地面に降り立ち瑪瑙をくわえるすう虞に、綱が掛けられる。

    先ず1本、…反対側からも1本。

    斜めに、首に。

    地面に降り立った男達の手には綱の先がしっかりと握られ、すう虞は動きを封じられる。

    利広は、ふと、狩りは恋に似ていると思った。

    相手の魅力に酔い、言葉を交わし、それと気付かないうちに身動き取れないほど相手に

    捕らわれている。

    引き綱の役目をするのはきっと、愛の告白、愛の言葉。

    受け入れれば、陥落した合図。

    この恋、かなうだろうか。

    いや、かなえてみせる。

    利広は、引き綱を握ってすう虞に近寄った。

        

    「兄さん、今回は大もうけだ。また、誘ってくれ。」

    夜明け、令乾門の手前で男達と別れる。

    結局すう虞を2頭狩り、最初の白い方を利広がとった。

    もう1頭は男達がその売り上げを5等分する。

    1頭いれば一生食べていけるといわれているすう虞だ。

    5分の1でもかなりの額になる。

    引き綱を掛けられたすう虞は、瑪瑙と香で幾分おとなしい。

    まだまだ調教が必要だが、連れて帰るくらいなら造作のない事だった。

    日を浴びて美しく光るすう虞を見る。

    女王を乗せるのにふさわしいと思う。

    良く馴らして女王に贈り、短くても良い、一緒に旅をしよう。

    「恋したのは私だけど…でも片思いじゃ物足りないね」

    遙か日が昇る東に、朝議のために目覚める女王がいる。

    この恋、かなうだろうか。

    「かなうといいね」

    星彩に顔を埋める。

    「頼りにしているよ。」

 

 

 

 

 

 

                                                       山なし、谷なし、色気なし…自分で言っててむなしい…。

                              リク小説のつもりだったのですが、あんまりな内容で止めました。

                              更夜を出すつもりが撃沈しました…