手に入れた国は滅びかけていた。

         荒廃を前にして今度こそ失うまいとその想いを新たにした。

        勇んでのりこんだ宮殿は…しかし外の世界とはあまりにかけ離れていた。

        煌びやかな装飾やおびただしい宝物に、さも当然のように取り囲まれて暮らしている高官達。

        それらを守り、そっくりそのまま新王に渡すのが義務なのだと、誇らしげに言う顔。        

        今、この時にも雲海の下では人々が飢えて死んでいく。

        かけがえのない民が。

        もう、一人たりとも失いたくない民が。

          (ふざけるな!)と思った。

        迷わず御庫を開いて宝物を売り払う算段をした。

        売れるものは何でも売ってとにかく穀物を買おう。

        これで春まで糊口をしのいでいかなければならない。

        いや、新しい実りのある秋までは…。

        大切な民がまた失われてしまう…焦りにも似た想いが尚隆から眠気を奪った。

                  その夜、

        眠れぬままに書類に目を通す彼の前に、一人の女が現れ名を呼んだ。

        ……ナオタカ…サマ……        

 

 

       

 

                 <玄英宮のまぼろし> 

        

 

       

                 「眠れない…」

        陽子は臥床のなかで天井を見上げていた。

        闇に慣れてきて天蓋の模様がおぼろげながら分かるようになった。

        しん、とした暗闇。        

                  「今、何時頃かな…」

        臥床からおりて上着を羽織る。

        衣擦れの音がやけに耳障りに感じられる。

        露台にめんした窓を少し開けて外を見ると

        とたんに、生暖かい風が頬をなでていく。

        葉擦れの音がさわさわと聞こえて雲海が暗闇をいっそう深いものにしている。

        「なんだろう、どきどきする。」

        胸の中に心臓だけあって、あとは空っぽのよう。

        「気持ち…悪い…」

        おもわず、胸の辺りの衣を握りしめる。

        突然、ぽっと灯りが点いた。

        右の奥、離れた場所にかすかに漏れる灯り。

        尚隆の部屋の灯り。

        とすると、彼も起きているのか。

        ほっと救われた思いで灯りを見る。

        玄英宮に来て4日目。

        今回はとにかく眠り続けていた。

        体が休息を欲していたのだろう、食事もそこそこに眠っていた。

        目が覚めた…ということは眠り足りた、ということか。

        そんなことを考えながらふっと振り返って戸口を見る。

        (え?)

        扉の向こうが気になる。

        (なぜ?扉?)

        気になる事に、戸惑う。

        扉の向こうは回廊になっていて…夜中に誰かがいるはずもなく…

        いって確かめたい気持ちと一歩を踏み出すのをためらう気持ち。

        知らず水禺刀を引き寄せる。

        音もなく扉に近づきそっと開ける。

        回廊には小さな松明がそこ此処にあり臥室よりも明るかった。

        意外な明るさにほっとしたが、回廊の奥から手燭の灯りが一つ近づいてくるのに緊張する。

        明るいとはいえ小さな炎にすぎない松明や手燭では、人影がボンヤリと見える程度で四隅は暗がりに沈んでいる。

        (見回りの兵士にしては、シルエットが違うような…。女官?)

        衣擦れの音ひとつたてず、その影は近づいてきた。

        いったい、こんな時間に何処へ行くのか?

        実をいえば、夜中に扉の前で灯りも持たずに立っている陽子の方がよほど怪しい。

        もし女官が暗がりに立っている陽子に気づいたら驚いて腰を抜かしかねない。

        そのことに気づいて扉の影に入ろうとしたのだが…

        (…か、体が…金縛り?)

        手を指を必死に動かそうとするがまるで言うことを聞かない。

        目ばかりが手燭の炎を追っている。

        もう随分とそばまで来ていて、その様子が見てとれる。

        (…このひとっ!!)

        踵まである長い黒髪。

        ゆったりとした着物に緩くしめた帯。

        その上に裾を引く打ち掛け。

        (これは…)

        夜目にも白い肌。整った顔立ち。二十歳を過ぎた大人の女性。

                  ややうつむき加減に歩みを進める、薄暗がりにも足取りに迷いは無く。

        ぞくり、と総毛立つ。

        寒い。

        今まさに陽子の目の前を通り過ぎて。

        ふと、立ち止まる。

        陽子は息をつめて目を見張った。

        全身がこわばる。

        手燭がゆれ、女の白い顔がゆっくりとこちらに向く。

                  (ひっ…)

        女の目がしっかりと陽子をとらえ細められる。

        「…ほう、これはこれは。殿の側女(そばめ)かえ?」

        お歯黒の赤い唇が妖しく動く。

        唇の端があがり、喉の奥で「くくっ」と笑うと、また何事もなかったように歩き出す。

        焚きしめられた香が漂うなか、女の姿は闇に溶け手燭の灯りだけがその存在を主張している。

        不意に灯りも見えなくなり、どうやら回廊を曲がったらしいことに安堵する。

        目だけで追っていた陽子は、金縛りが解けてへたへたと座り込んだ。

        「はっ…はぁっ、はぁ〜〜。こ、怖かった…」

        知らず止めていた息もあらく、今頃震えが来る。両手で肩を抱くようにしても震えは収まらない。

        (だれ?女官にしては…なんか…)

        (殿って、尚隆のことか?)

        回廊を曲がった先には尚隆の部屋があることに気づく。

        (尚隆の部屋に?ま、まさか取り憑いてるとか…)

                  物音一つしない回廊をうかがっても、ただ暗闇の中に松明の心細い灯りがゆれるだけ。

        いっそ、尚隆のところへ行こうかとも考えた陽子だったが、どうにも足が言うことを聞かない。

        這うようにして部屋にもどり臥床に潜り込む。

        夜具を引き寄せしっかりと体に巻き込み天蓋を見回す。

        女の顔が傍らに浮かびそうな気がして目を閉じるのも怖い。

        (お、落ち着け…落ち着くんだ、自分…)

        (女官…そ、そう、女官だ。きっと、なんか用事があって…)

        (あ、わ、忘れ物とか。呼ばれた…とか。って誰に?尚隆に?なんでって…あ…)

        顔が赤くなったような気がした。

        (尚隆の部屋に行かなくて良かったかも…)

        心のどこかで、(違う!)と否定する声がある。

        (あんな衣擦れの音一つたてない歩き方なんて出来ない。)

        (此処の女官が私を知らないはず無いじゃないか。)

        (あ、でも、私がここに来るのを良く思わない者がいるのかも…嫌がらせ…とか。)

        夜明けまで睡魔はやって来なかった。

 

        朱衡達との政務からようやく解放された尚隆は、私室で奏上された書類に目を通していた。

        ふいに、ゆらりと気を感じ剣に手をかけて部屋の扉を見る。

        開いてもいない扉からすうっと人影が入り込む。

        その姿を見て

        「そうか、閏年(うるうどし)だったか。」

        「はい。お約束通り夏至でございますわ、なおたか様」

        「500年も良く続くな。律儀なことだ。」

        500年前、宝物を売り払おうとしているとき、今夜のように女がやってきた。

        そして、御庫においてくれと尚隆に取りすがった。

                  妄執なのだと。この宮殿に囚われていると。

        何代か前の後宮の寵妃が、お決まりの同輩の嫉妬で毒を盛られ、気づいたときには自分の鏡に取り込まれていた。

        そのままこの想いが薄れゆくのを待っていた。      

        今、売却という形でこの宮殿を出されては、せっかく薄らいできた恨みや憎しみが新しい持ち主に災いをもたらすかもしれない。

        けっして他の者に危害は加えない。

        そう訴える女の手に古い鏡があった。

        すでにその表面は曇り、さほど高価にも見えない。

        「わかった。宝物の売却が終わったら御庫に戻しておく。」

                  鏡を受け取ると、女は安心したように笑顔をみせた。

        「お約束の証に、閏の年、夏至の夜に訪ねて参ります。」

        そう言った女の姿が、変わっていった。

        見覚えのある白い顔に…。

        「なおたか様のお心に今一番強く残っていらっしゃる女性(かた)ですわ。あとは、よしなに。」

        驚く尚隆の目の前ですうっと消えていった。

        (…そうかもしれない。だが、今更その姿を見たとて、どうなるものでもない…)

        …以来、約束通りに女はやって来た。

        亡くなった女の姿で。

        とうに亡くなった女がいまだに動き回っている姿は、己や女の過ちをいやでも思い出させる。

        あの時、つまらない意地など張り合っていなければ、お互いこんなに傷つくこともなかっただろう。

        せめて成仏していると思うことで、すべてに決着をつけたはずだったのに。

        死してなお己に縛り付けられている女が哀れに思えて、姿を変えるよう言ってみたこともあったが。

        首を横に振って静かに拒否される。

        「私は、鏡。なおたか様のお心のまま。」

        一度、六太が居合わせたことがあった。

        蓬莱でその姿を見たことがあったのだろうか。

        「なぜ、此処にいる?」

        硬い表情で尚隆を見る。

        いきさつを説明したが、いささか情けない顔をしていたのかもしれない。

        「今更どうにも出来ない事だから、忘れられないのかもな。」

        仁獣のまなざしでそう言って部屋を出て行った。

        夏至の夜は、すぐに明ける。

        短い夜に、形だけ夫婦だった男と女が、静かに座して。

        書類を繰る音だけが部屋に響いた。

 

        明るい露台にいると昨夜のことが夢のように思われる。

        だが、夢ではない証拠に目覚めたとき水禺刀を抱いていた。

        布団も身の回りに敷き込まれ不安だった夜を思い出させた。

                  「大丈夫か陽子?顔色がまだ良くないな。あのバカなんかほっといて休んだ方がいいぞ。」

        様子を見に来た六太が心配そうに言う。

        「いえ、十分休みましたから。ただ…」

        「ん?」

        首をかしげて陽子を見上げる六太の邪気のない顔に言って良いものかどうか迷う。

        「話してみ?あんまり役には立たないだろうけど。一人で抱えているよりはいいんじゃない?」

        もし、本当に女官だったら。怖がる必要は無くなるけれど、騒ぎ立てないようにしないと。

        へたをすれば、国交問題になりかねない。なんとか穏便に済ませる方法を考える。

        「ちょっと…夢見が悪くて…」

        「夢?」

        「夕べ…変な夢みちゃって…寝過ぎかな。ちょっと怖かったから…」

        「怖い夢?どんなの?」

        「暗い廊下を手燭の灯りだけで女の人が歩いて来てね。私は部屋の扉の所でただ見ていて。動きたくても動けなくて。」

        「それって金縛りってやつ?」

        「たぶん。それで、私の前で一度立ち止まってこっちを見て、すぐまた歩き出して回廊を曲がっていったんだ。

         衣擦れの音もしないし、見てはいけないモノを見ちゃったっていう気分だな。色が白くて美人なんだけど、

         それがいっそう怖かったな。赤い唇にお歯黒で。」

        「お歯黒…」

        「ねえ、こっちではそういう風習はないでしょう?蓬莱だって今そんな事している人はいないし、変な夢ですよね。」

        苦笑してみたが、顔がこわばって上手くいったとはいえなかった。

        「どんな格好だった?こっちの女官みたいだった?」

        「それが…むしろ昔の蓬莱の着物みたいな…打ち掛けっていうのかな、裾を引きずるような着物で。髪も背丈ぐらい

         長くて。」

                  「…それ、本当に夢だった?」

        「え?」

        まっすぐ問いかける眼差しに思わず聞き返してしまう。

        「陽子が誰かを庇っているつもりなら、それは必要ないな。俺、そいつに心当たりがある。」

        「知ってるんですか?」

        「尚隆に会いに来ているんだ。わかってると思うけど、生きている人じゃない。」

        「じゃあ、幽霊…」

        「蓬莱の女の姿をしているけど、もとはここの後宮の住人だったらしい。」

        「後宮?」

        「俺たちがここへ来るずっと前の話だ。亡くなった女が御庫の古い鏡に憑いた。よっぽど此処の暮らしに未練があったんだな。

         尚隆が王になったとき食物を買うために宝物をかたっぱしから売ったら、その女がやってきて売らずに此処に置いてくれって

         たのんだらしい。」

        「じゃあ、いまだにあるんだ。その鏡。」

        「そうだな。…見に行く?」

        にやりと笑った六太に慌てて首を振る。

        「け、けっこうです。」

        「アレはべつに何か危害を加えるわけじゃないんだけど、怖い思いをした分、陽子には気の毒だったな。」

        「他にも見た人はいるんですか。」

        「事情を知っているのは、たぶん尚隆と俺と陽子だけだと思う。時々女官が騒いでいるときもあるけど、そんなにはっきり

         見たヤツはいない。ナニかいるみたい…ぐらいで。」

        陽子はため息をついた。

        (…霊感なんてないと思ってたんだけど)

        「どんだけ続いているか分からない宮殿だからなぁ。まして後宮なんて幽霊話には事欠かないさ。

         陽子のいる金波宮だってちょっと探せばいくらでもあるんじゃないか?」

        「…う。それは、そうかも…。帰るのが楽しみなような、怖いような…。」

        くすっと笑う。

        やっと陽子に笑顔がもどって内心ほっとした六太だったが、

        「そういえば、あの人ってもともとこちらの後宮の人なんですよね?なぜ蓬莱の女(ひと)の姿なんでしょう。」

        そう問われて思わず視線がおよいでしまった。

        「あー、尚隆が蓬莱出だからじゃないか?尚隆に聞いた方がいいかも…(言えないよなぁ…奥方だったなんて)」

        「ふ〜ん?」

        (やばい…疑ってる!?)

        「そ、そろそろ政務も終わる頃だし、尚隆の所へ行こ?あ、お、俺、腹減ったかも。」

        「…そうですね…じゃあ、行きましょうか。」

        六太の慌てた様子に苦笑しながら陽子は同意した。

 

        「来たな。こちらもやっと解放されたところだ。」

        尚隆はやって来た陽子と六太に笑いかけると立ち上がった。

        「少しは疲れもとれたようだな。出かけられそうか?」

        「はい。大丈夫です。」

        「あまり顔色が良くないな。まあ、今回は近場を選んだから大丈夫だとは思うが、無理はするな。

         調子が悪かったら言ってくれ。」

        「陽子は昨夜アレを見たんだってさ。寝不足にもなるよな。」

        「アレ?」

        怪訝そうに首をかしげる尚隆に六太はため息をついた。

        「夏至の夜来るアレさ。昨夜来たんだろう?」

        「あ、…ああ、アレ…か。陽子が見たのか?」

        うなずく陽子の代わりに六太が答える。

        「部屋の前でバッタリ会ったってさ。何もされはしなかったみたいだけど、女官じゃない事くらいわかるから随分

         怖い思いをしたんじゃないか?」

        「…そうか。それは災難だったな。すまなかった。」

        「いいえ。だいたいの事情は聞きましたから、もう大丈夫です。」

        陽子の言葉が終わりきらないうちに尚隆が戸口に視線をはしらせ剣の柄を握った。

        陽子と六太を背中で押しやるようにして尚隆は前へ出る。

        尚隆の後ろからそっと陽子が見ると、尚隆の前に淡く光るモノがあった。

        それが、だんだん人の形になっていく。

        ついに昨夜の女の姿になったとき、尚隆が口を開いた。

        「昨夜に続き、今日は明るいうちからお出ましとは珍しいことだな。何用だ。」

        女はにっこりと嬉しそうに笑い

        「やっと念願が叶いました。これでようやく此処から解放されまする。ついては、なおたか様に一言御礼を申し上げたく

         参上いたしました。ながながとありがとうございました。」

        陽子は六太と顔を見合わせた。

        「そうか。やっと逝けるか。それは、喜ばしいこと…と言って良いのだろうか。」

        尚隆の声音に不意に胸を突かれたような気がした陽子は、そっと彼を見た。

        が、陽子の位置からではその表情は分からなかった。

        「…はい。なおたか様にはおすこやかであられますように。」

        頭を下げる女の姿が一瞬ゆらぐ。

        顔を上げた女の姿に息をのむ。

        紅の髪。

        翡翠の瞳。

        とびきりの笑顔で。

        「尚隆、ありがとう!」

        言い終わったときにはその姿は消えてしまっていた。

        (わ、わたし〜!)

        驚きで固まってしまう。

        ほんの少しの間、女の消えた場所に見入っていた尚隆は一つ息をつくと振り返った。

        「大丈夫だったか。」

        だが、陽子と目があったとたんそれは不自然にはずされた。

        明らかに動揺している尚隆は椅子に座って額に手を当てた。

        「…まいったな。」

        「『尚隆、ありがとう』…だってさ。」

        ニヤニヤとからかうように言う六太を睨むように一瞥する。

        「…」

        「よかったな。…お前も解放してもらったんだ。」

        今度は真面目に言う六太に、

        「…ああ。そうだな…」

        目を閉じたまま答える。

        いつもとは違う男の横顔がひどく儚いもののように見えて陽子は切なかった。

        脆く崩れやすいものを支えるように両腕で抱きとめたい。

        降って湧いたような想いをどうすればいいか解らず、意識のすみに押しやる。

        想いのままに行動するのは穏当ではないと、理性が警鐘を鳴らす。

        その理性を押し流してしまうほど感情がたかぶる日がいつか来るかもしれない。

        陽子がそんなことをボンヤリと考えていると、慌ただしく女官がやって来た。

        「主上。御庫の鏡が劣化して亀裂が入ってしまいました。これではもう、手の施しようがありません。」

        鏡は大きく亀裂が入り、黒くくすみ、触れるとぽろりと砕けた。

        「良い。庭師に言ってこのまま深く土に埋めよ。そうだな、裏山がいいか。」

        すでに王の顔に戻った男は陽子を振り返った。

        「さて、俺たちも出かけよう。港を見たいと言っていたな。元州の黒海沿いには規模の違う港が揃っているぞ。」

        「それは、楽しみです。」

        「なー。まず関弓に降りてなんか食べよう。もう腹が減ってさぁ。」

        回廊を禁門に向かう。

        尚隆はしばし振り返った。

        先程の女官が鏡の残骸を持って回廊を曲がって行く。

        『私は、鏡。なおたか様のお心のまま。』

        女の声が聞こえた気がした。

 

        六太と陽子はたまに、尚隆はとらに乗って関弓の街を目指す。

        「そういえば…」

        「ん?なんだ陽子。」

        「あの女(ひと)。最後に私の姿になりましたよね?あれっていったい何だったんでしょう。」

        「あはは、尚隆。な、何だったんだろうねェ…」

        「ああ、あれは鏡だからな。目にしたものを映しただけさ。」

        「そうそう。陽子綺麗だからさぁ、映してみたんだよ、きっと。」

        「え〜。嘘くさいな〜。なんか隠していません?」

        「な〜んも。な、尚隆。」

        「ああ」

        関弓の町並みが近づいてきた。

 

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                 お疲れ様でした。毎度ご来訪ありがとうございます。

                 「玄英宮のまぼろし」は実は、このシリーズの一番最初に考えていたストーリー

                 です。突然これを書いても意味が通じないかもと不安になって「旅立ち」を書いたのです。

                 季節的にも冬でして、(真冬に怪談話っていうのもどうだろう?)と思い中断しておりまし

                 た。いよいよ、それらしい季節到来ということで書き始めたのですが。

                 シリーズ全体の時間の流れからすると「女官のないしょ話」の後になりますか。

                 出来栄えのほうは…ぜんぜん怖くない…。なんか陽子さんがとっても恐がりみたいで

                 少々不本意ですねぇ。そして尚隆ですが。彼と蓬莱の正室(奥さん)の関係は、原作では

                 尚隆自身があっさりと言ってしまうほど割り切っているように見えますが。

                 当時の結婚が恋愛感情などないものであったということでも、彼は彼なりに妻にやさしく

                 接しようとしたはずで、だからこそ拒否されて傷ついたのだろうと。正室はおろか側室も

                 見向きもしなくなるほどに。良くも悪くも彼にとってその印象は強いはずだと思います。

                 それで、鏡がその姿を尚隆の心から映し出した…それは陽子が現れ、尚隆の心に

                  根付くまで続いた…後宮が空いていたのもうなずけるってものです。

                 最後に陽子の姿を映したとき、六太も尚隆もその意味を知るのです。

                 それまでは胎果の誼などと誤魔化していたのですが、誤魔化しがきかないほど心奪わ

                 れているということに。

                 正室も哀れな女(ひと)ですね。たった一晩意地をはったばかりに夫には見向きも

                 されず、あげく、夫の父親との子を成してしまうなんて。妻として傷つき、母として

                 罪の意識に苛まれる。早くに亡くなったのは彼女にとって救いだったのだろうか、などと

                 思ってしまいます。いつか、もっとしたたかな彼女も書いてみたいかも。

                 後書きも長い…ってどうよ?(聞くな)

                 お読み下さった方、ありがとうございましたv