花見の宴

 

 

        「花見につきあえ」

        「はあぁ??」

        めずらしく朝議に二人そろって出席した主従は、あっという間に雲隠れし

        午後の政務はほったらかしだった。

        「あんの馬鹿者どもはあぁ!」

                  「まあまあ帷湍、だいたい行く先は分かっていますので。」

        「わかっておるのか?」

        「大方の見当は。まあでも、こちらの政務を少し片づけてから

         ゆっくりと――お迎えにあがりましょう。(ニッコリ)」

        室内の温度がいっきに下がった…。

        

        尚隆に強引に連れて行かれたのは、玄英宮の裏手の奥まった山だっ

        た。

       桜が満開で空気の色まで霞んで見える。

       「すげー。こんなとこあったんだぁ。」

       桜の下に座り、尚隆は持参した酒を飲み始めた。

       六太は桜を見上げては、あちらこちらと歩いている。

       ――桜を見ると蓬莱を思い出す。それがつらい時もあったが――

       暖かい陽射しの中

       はらり、と花びらが舞い落ちる。

       再会した祖国は、もはや知らない異国となった。

       蓬莱という異国に……

       だが、この花は今も同じように咲いているのだろう。

       常世と蓬莱と二つの国に。

 

       親父殿の趣味で小松の館も、春には桜が満開だった。

       中庭に里の連中を引き入れて、夜桜見物をしたっけ。

       篝火が赤く燃えて。

       大勢で酒を酌み交わし、手拍子で唄をうたい、ある者は踊って。

       常日頃、花を愛で酒は静かに嗜むものだと言っていた親父殿が、

       浮かれた騒ぎをそっと館から見ていたな。

       気付いていながら、親父殿に批判的だった俺は、わざと声を掛けなかっ        

       た。

       一緒に飲みたかったんだろうな。

       今なら…

       …いや

       今は

       こうして静かに花を見て酒を飲んで、

       こんなのも悪くない。

       

       酔いで、ほてった体に風が心地よい。

       空を見ると、日が傾きはじめて、

       肌寒くなったのだろう、六太が眠そうにすり寄ってくる。

       「おい、ねるなよ? お前ものむか?」

       「え〜、オレ飲めないし〜」

       「良いから飲め。」

       六太に酒を勧めながら、ふと思う。  

       まだ慶国の大地には、桜は咲かないだろう。

       今度、胎果の女王を花見に誘おうか?

       桜を見ると蓬莱を思い出すから

       まだ、陽子にはつらいだろうか。

       

       故郷が蓬莱という名の異国にかわるまで

       記憶を思い出にできるまで

       気長に待ってみるさ。

 

      

 

       日暮れ時、

       絶対零度の微笑みをうかべた朱衡等が  

       酩酊した主従を迎えに来るのは

       もう少し後の事になる…。

 

 

 

                      

                      古諺様のサイト「ガラクタ置き場。」で2003を踏んだところ

                      とても素敵なイラストを描いて頂きました。酒飲み尚隆+べっぴ    

                      んさんという無茶なお願いを快くうけて下さいました。

                      んも〜、クラリと理性が飛んでいってしまいまして…。

                      調子に乗ってSSを書いてしまいました。

                      古諺様に献上いたしますねvv

                      駄文ですがどうぞ、貰って下さい…!!