「・・・・許す」
僅かな沈黙の後に紡がれた言葉を聞いて、才麟は顔を上げた。
周囲を取り巻き、伏礼をしていた者たちが顔を上げている。
その見慣れぬ者たちの顔は、皆一様に晴れやかだ。
目の前の強く鮮やかな気配を纏った男もまた、笑っているのだろうか。見上げてみたが、その顔は見えない。
―― 膝をついたままの態勢が悪い。
そう考えて、立ち上がる。
痛いほどに首を曲げるが、それでも・・・・よく見えない。
―― 立つ位置が近すぎるのか。
采麟は男を見上げたまま、少しずつ後ずさる。
首に負担をかけずに、男の表情を見られるあたりまで離れた。
笑顔を期待したが、予想に反して、彼は笑っていなかった。
采麟は首をかしげる。
―― ・・・・?
先程の自信に満ちた、落ち着いた声音とは裏腹の不安そうな、困ったような顔。
気づけば、周囲の者たちの顔からも笑顔が消えている。
つられて采麟も不安になる。
「・・・・主上?」
どうすればよいのか分からなくなって、声をかける。
すると男の顔が、ホッとしたように緩んだ。
彼は采麟に近づき、片膝をついて目線を合わせる。
「どうしました、采麟?」
采麟は首を反対側に傾けた。
―― どうしたのか訊きたいのはこちらだというのに・・・・
「私が嫌いですか?」
この男は思いもよらないことを訊いてくる。王を嫌う麒麟などいるはずもない。
黙って首を横に振る。
「では、私が・・・・怖いのですか?」
―― 訳がわからない。
たしかに蓬山には女仙しかいないけれど、男が珍しくはあっても怖いと思ったことはない。
だから黙って首を振った。
すると彼は、困ったように微笑む。
「では・・・・・・・・何故、私から離れようとなさるのですか?」
―― そういうことか。
彼が笑顔を見せなかったのは、采麟が離れたことに不安を感じたかららしい。
「主上のおそばにいては、主上のお顔がよく見えません」
彼は目を見開いて、そして小さく吹き出す。
「では、こうすれば良い」
言って采麟を抱き上げ、彼女が見たいと思った晴れやかな笑顔を見せた。
「これなら、お互いの顔を見て話ができるでしょう?」
一瞬驚いた采麟も、やわらかく微笑む。
―― ああ、これが・・・・
笑顔を見せる男の顔に手を伸ばす。
彼は、采麟の好きなようにさせている。
「主上・・・・」
―― この人が、私の王。
−Fin−
蛇足
こうして砥尚は采王となった。
こうした出逢いの状況のために、この主従に抱き癖がついたこと。
そして、「華胥の夢をみせてあげよう」の名台詞の時のみならず、
成長するまでの采麟が、常に砥尚の腕の中にいたことは才国の最重要機密事項となる。
−今度こそ終わり−
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<鏡月様よりコメント>
お待たせ致しました。みー さま。
リクエスト『王と麒麟』で描いて(書いて)見ましたが、いかがでしょう?
どの国でもいい。ということでしたので、奇をてらって、才(しかも先代)にしてみました。
え・・・・雁の方が良かったですかね、やっぱり(汗)
才主従ということを主張するために、梅(のつもりなんです。あれでも一応)など描いてみたら、
やけに年賀状っぽい雰囲気に・・・・何を間違えたんでしょう?
オマケssのヘッポコ加減が涙を誘う感じですが、貰ってやってください。
<みー>
鏡月様のサイト「地球教」500HITおめでとうございます。
めでたくキリリクをゲットしまして、「王と麒麟」を書いて頂きましたv
何処の主従をどんな風に描いて下さるか興味津々で待っておりましたら。
先代の才主従!しかも抱っこvです。
やられた…可愛い才麟を抱っこ…(すごくイイv…//)
また、おまけSSが甘くて…その後の破局を思うと切ないですね。
鏡月様有り難うございましたv