Pick me up

 

蝕によって流された蓬莱の物を売る所があると耳にした陽子は好奇心から無断でそこへ行ってしまった。

景麒に言えば必ず反対される事は分かっていたので彼が瑛州に行く午後を狙って

護衛についていた班渠を説得して連れて行ってもらう事にしたのだ。

「ここだよな…」

陽子は唖然とした、勝手に闇市のようなものを想像していたからだ。

だがそんな雰囲気は全く無い、むしろ普通の店と同じように売り出している。

「いろんな物が流されているんだなぁ。これって三輪車?誰か乗るのかな…?」

周りを見渡せば壊れている物も多々あるようだ。

あれも流れ着いていればいいのに、と考えていると案の定見つけてしまった。

「おじさん、これ売っているの?」

陽子は店主であろう人物に声をかけた。

「それか?あぁ、だが使い道がよく分からんし壊れているみたいだからなぁ」

欲しいのかと聞かれたので頷いた。

「ならやるよ、どうせ壊れ物だから引き取ってくれるならこっちがありがたい」

店主は大きく笑い陽子にそれを渡してくれた。

陽子は店主に礼を言い、足早に店を離れ使令を呼び出す。

「悪い班渠、これ運べるかな?」

“なんとか…”

「無理を言ってすまないな。景麒が帰ってくる前にこれを隠さなきゃ、あいつには内緒だぞ?」

口に指をあて秘密の合図をおくる。

班渠はこの時、これからやってくる嵐を予感したという。

 

予感どおり、事件はおこった。

朝議が始まろうとしているのに肝心の主が一向に姿を現さない。

「一体何をされているのだ、あの方は」

苛立ちを感じながら景麒は先程から左右を行ったり来たりしている。

「台輔、少し落ち着いてください。まだ時間はございますから」

「しかし…」

景麒は後ろを振り返った、王気を感じる。

いつもなら声をかけるが今日は言葉を失った、あの浩瀚までも絶句している。

陽子がおかしい訳ではない、おかしいといえば陽子が乗っているもの。

「すまない、待たせたな」

「…主上、それは…?」

浩瀚からの質問に陽子は笑う。

「これか?自転車という蓬莱の乗り物だ」

なんと陽子は自転車に乗ってここへやって来たのだ、陽子があの店で探していたもの。

それは自転車の事だった。

六太に頼んで工具を持ってきてもらい、それで壊れていた箇所を自力で直し乗れるようにしてしまった。

「自転車の構造はよく分からなかったけど技術の成績は良かったし。なんとかなるものだな」

陽子はケラケラと笑っている、黙っていた景麒がやっと口を開いた。

「…浩瀚、今日の朝議は任せました。主上にはお話があります」

そう言って歩き出す。

「ちょっと景麒!?任せるって…私は元気だぞ?」

無言で先に進む景麒の後をしぶしぶ追いかけて行った。

「お前、無茶苦茶だな」

と言う陽子の声が浩瀚の耳に届き、主上も十分無茶苦茶ですよと思ったとか。

人通りのない回廊まで歩かされ陽子はげんなりしていた。

「おい景麒。話ってなんだ?」

全く口を開こうとしない景麒に変わり陽子が口を開く。

その景麒は大きく溜息をついた。

「主上、一体何のおつもりですか」

その視線は自転車。

「何って…何が?」

「その自転車という物です!一体どちらでそのような物を…しかもご自身で直し、あまつ乗るなど!!」

「王としての自覚はあるのは?だろう、もう聞き飽きた」

最初は重かった言葉も今となってはどうでもよくなった。

「私の部屋から外殿まで遠いんだ、毎日往復するのは疲れる」

自転車は楽だぞと言って陽子は乗ってみせた。

そういえばと景麒は気付く、最近では女性ものも着るようになっていたが今日は官服。

しかも薄着になっている、きっと乗りやすいように女史にでも頼んだのだろう。

景麒は呆れて溜息も出ない。

「…主上、とにかくそれに乗るのは止めて頂きたい。明日からは輿に乗って…」

「あれは恥ずかしいから嫌だ、全く話がまとまらないな」

逆に陽子が溜息をつき、自転車をこぎ始める。

景麒は慌てて止めようとしたが速度が違う、そのまま見送るしかなかった。

それから陽子は何かと自転車で移動するようになった。

官たちもはじめこそは文句も言っていたがこの突飛な行動になれていったのか今では何も言わない。

ある時は桂桂を後ろに乗せたり、書類をかごに入れて来たりと次第に金波宮ではこの風景が当たり前のようになったいた。

景麒はこれまでにない大きな溜息をついた瞬間、置くから大きな物音が響いた。

大急ぎでそこへ向かった、なぜならそこに王気もあったから。

「陽子!!ちょっと大丈夫?」

そこには祥ケイがおり、鈴が医師を連れてきていた。

「い、いたた…」

陽子は勢いあまり自転車ごと階段から落ちたようだ、幸い段の少ない階段と持ち前の反射神経のおかげで大怪我は避けることはできたが。

「足を捻っておられるようですね」

しかしこれだけの怪我ですむなんて、医師も思わず感心している。

「自転車が…」

怪我までしたのにまだ自転車に目が向いている陽子に景麒は最後の手段にでる。

「主上、いい加減にしてください」

ゆっくりと抱き上げた、蓬莱でのいわゆるお姫様抱っこ。

「な!?景麒おろせ!」

祥ケイも鈴も医師もただ唖然としている。

「主上が自転車に乗ることを止めてくださるまでおろしません」

「な、何!?…分かった、分かったから!止める、もう乗らないから!!」

だからおろしてくれ、最後に聞こえた声は小さすぎて聞き取りにくかった。

「本当ですね、約束ですよ?」

「絶対乗らないよ」

その言葉を聞きおろそうと思ったが心配をさせた仕返しを思いつく。

「主上、明日からは自転車の変わりに私がこうして送ってさしあげましょうか?」

「……勘弁してくれ」

不適な笑みで言う、陽子は真っ赤な顔を手で覆った。

そして後ろではこのやりとりを見ていた3人がこちらも真っ赤な顔でうろたえている事を

二人はまだ気付いていない。

 

 

 

fin

 

 

 

柏野さん、どうもありがとうございます。

景陽はあまり(かなり?)書かないのでラブ2が新鮮です!!

本当に有り難うございました!!

柏野サマの素敵サイト「Robot Station」はLINkから行けますよvv