雪月花  雁国編

 

「あの野郎…また俺を置いてどっかに遊びに行きやがった…」

前にもこんな事があったような、ぶつぶつと呟きながら歩いていると会いたくない人物に出会う。

「おや台輔。先程の発言をもっと詳しく聞きたいと思っているのですが…よろしいですかな?」

「しゅ、朱衡…!?」

手には王が、つまりは尚隆が読むはずだった書類の束が握られている。

また逃げられたのだろう、微笑んでいるその表情は冷やかな笑みといったほうがいい。

「それで台輔、主上はどちらへ遊びに行かれたのですか?」

「さっきのは言葉のあやだよ、尚隆は遊びになんて行ってないってば。王気はここら辺から感じてるしー」

「そうですか…ではこの辺をくまなく探す事にいたしましょう」

朱衡はそう言うと台輔も遊びすぎはいけませんと、釘をさすように踵を返した。

六太は恐怖に打ち勝った事を安堵するように息をはく。

「こ、こわ〜…仕方ない、尚隆に知らせてやるか。見つからないと俺までとばっちりだ」

別にかばった訳ではないが尚隆はここにはいない。

この辺から王気を感じているというのは嘘だった。

「そうでも言わないと俺が怒られてたし…」

王気を辿りながら無造作に扉を開け中に入っていく。

たどり着いたのは露台だった。

「…六太か?」

「なんでわかったんだよ」

「半身に対する愛で」

「…そりゃどうも」

半ば呆れたように六太が言うと尚隆も堪えていたように笑い出す。

「俺がここにいるなんて誰にも言ってはないし、来るとしたら王気を辿ってきたお前ぐらいだな」

「最初からそう言えばいいだろう…やっぱりお前って本当の馬鹿殿かもしれないって思うだろ」

尚隆は軽く笑いながら杯に酒を注ぎながら六太に言う。

「聞いたか?市井には雪が降っているらしいぞ」

尚隆はニヤリと笑うが六太は逆に顔を顰める。

「雪…?そんな事は聞いてないぞ、さっきも朱衡に会ったけど言わなかった」

「それはそうだろう、言ってしまえばどこかの王と麒麟はすぐに遊びに行ってしまうからな」

どこかの王と麒麟、そんなの自分達を除いてどこにいるのか。

六太は思わず噴出した。

「雪見酒も悪くない」

「俺は酒は飲めないって言ってるのに…」

「じゃなんだ。陽子たちも誘って雪合戦というやつでもやってみるか?」

腰をあげ、露台から雲海の下を見る、地上の様子は見えないが降っているはずだ。

「景麒が聞いたら俺達、即刻追い出されるぞ。せめて楽俊とか…あ、おい尚隆…」

「何だ、まさか行かないとでも言うのか?」

「いや…行きたいんだけどさ…」

少し言いづらそうに六太は尚隆に近づき苦笑した、というか苦笑するしかなかった。

「お前の事…朱衡が探してたみたいでさ…それで…俺…つけられてたみたい」

尚隆の顔色が変わると同時に六太はその肩をそっと叩かれた。

恐る恐る見上げると、やはり朱衡の顔がそこにある。

「隣国の王まで巻き込んで雪見ですか…?主上…台輔」

朱衡の後ろには帷湍や成笙の姿まである。

声にならない悲鳴が幻英宮に響いた。



fin


 

<柏野様よりコメント>        

後書き:3万御礼ですv
前回と同じように季節ネタでvv
雁主従は書きにくいです…(汗)
とくに尚隆は難しいです〜…うぅ。
3万越えありがとうございました〜!
お好きなものをお持ち帰りくださいませ

 

<みーより>              

相変わらずの延主従vもちろんお持ち帰りですv

柏野さんのサイトの3万フリー小説をいただいてきました。

他にも慶国編・恭国編がありました。

柏野様のサイト [Robot Station]は<リンク>からどうぞ〜